介護老人保健施設 しょうわ
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23「10年目の独り言」

 研修医の頃に老人病棟を回る機会がありました。でもその時は老人病棟を回診するのが嫌で仕方がありませんでした。ドアを開けた途端に悪臭が鼻をつくので、入る前に息を思い切り吸い込んで…。所詮一息では回れないのは承知していても、そうしなければいられなかった。悪臭の元は何かなどと考えることもなく、とにかく早く病棟から出たい、いっとき我慢すれば後はどうでもいい…他人事でした。
 医者になって3年目に後期研修で派遣された病院の精神科にも老人病棟がありました。当然自分の担当する患者の何人かは、その病棟にいるのです。今度は常勤ですから逃げるわけにはいきません。かといって関わりたくない。なるべく避けて通過する日々がしばらく続いていました。その頃は正直なところ認知症のことも老年医学のことも、さらには介護のこともまったくわかりません。それでも一応精神科の医者とし振舞わねばならず、医者としての治療をしなければならず。わかったふりをして「徘徊するから家で介護ができないなら、寝たきりにすれば家で介護できる」と思い込んで、薬を使い寝たきりを作っていました。でも寝たきりになったからといって、家に戻る患者はいませんでした。「そんなに薬を使ったら死んじゃう」と言った看護師の言葉を無視して薬を使い、結果は薬の副作用で表情がなくなり、活気がなくなり、最期は誤嚥性肺炎で亡くなっていく。こんなことを繰り返していくうちに、自分の無知と向き合わざるをえなくなりました。そんなある日、自分のことをよく知っている一人の相談員から、室伏君士先生の「痴呆性老人の理解と看護」という一冊の本を紹介してもらいました。そこには介護する側の考え方、対応の仕方によって認知症の問題行動は改善する。メンタルケアの大切さが書かれていました。今まで自分の行ってきたことの間違いと、あらためて認知症の患者と正面から向き合うことの大切さに気付かされました。
 それからは老人病棟が嫌ではなくなりました。看護スタッフと対応を工夫することで問題行動が問題ではなくなり、今まで寝たきりだった患者さんにリハビリを行うと笑顔になりました。自分の思うようにやらせてくれた上司。往診に付いてきてくれた相談員。リハビリを教えてくれた作業療法士。一緒に工夫してくれた看護師、介護職員。そして何よりも自分に担当させてくれた患者さんと家族。たくさんの失敗と後悔を繰り返す自分に協力してくれた人たち。老人介護がおもしろくなりました。
 そして12年前。どうしても自分の手で理想的な認知症の介護、高齢者の在宅介護をやりたいという夢を抱き、老人保健施設を開設することを決意しました。
 開設から10年。たくさんの利用者さんと家族に支えられ、職員一人ひとりに支えられながら、今の介護老人保健施設しょうわがあります。
 身をもって学ばせてくれた人。「こんな医療はもうしない」と約束した人。決して忘れません。
 そして「夢」の実現に向けて、これからもみんなと共に前に進んで行きたいと思います。

*会報誌26号(平成20年11月発行)より