介護老人保健施設 しょうわ
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32 「バク×バク」

バク×バク



子供たちは昼ごはんも終わり、深い眠りの中にいます。
見上げれば水平線の向こうから入道雲がやってきました。スコールタイムの始まりです。激しく地面をたたく雨音も、子供たちには子守唄。むにゃむにゃ独り言。ケラケラ笑い声。
ここは大陸から遠く離れた南の島。
あっ、申し遅れました。わたしは国連バク保護委員会「南の島プロジェクト」プロジェクトリーダーをしております。
国連バク保護委員会主導で進められた絶滅危惧種に指定されたバク100頭と、1歳から5歳までの子供たち5,000人がこの島に移り住む「南の島プロジェクト」。
その後も毎年1,000人の1歳児が移住する計画です。現在進行形の活動です。
歩くこともおぼつかなかった子が、1年もたつと砂浜を駆けずり回ります。水が怖くて海にも入れなかった子が、あっという間に結構な高さの岩から海へ飛び込めるようになります。「ママがいない」と泣いていた子たちが、ずいぶん立派になっていきます。
ここでは集団行動が原則です。年長の子がリーダーとなり、年下の子の世話を焼きます。年下の子は、よく年長の子のいうことを聞きます。ちょくちょく喧嘩もしますがすぐに仲直りをします。いじめはありません。なぜ?って、ここではみんなが協力する必要があるからです。みんなで考えて、協力して、行動して、それがこの島のルールだからです。この島は、ひとりでは何もできません。ひとりでは寂しすぎます。テレビもゲームもパソコンもなにもありません。ましてや自分の部屋なんてあるはずもないんです。とにかく一日くたくたになるまで遊んで、学んで、食べて、寝て。それがこの島のルールなんです。
あれから10年。最初に移住してきた子たちはすでに10歳、15歳。立派になりました。たくましくなりました。
バクの大好物は楽しいゆめ。バクが嫌いなものはつまらないゆめ。バクのエネルギー源は笑顔のゆめで、ストレスは涙のゆめ。
この島の子はどの子もみんな笑顔です。悲しいことがあっても仲間がいます。いつの間にか涙は消えてしまいます。それはいつでも一人ぼっちじゃないことをみんなが知っているからです。
良質なゆめが豊富にあるこの島で、バクは少しずつではありますが増加の兆しが見えてきました。
バクの繁殖と飼育に関する研究も成果をあげつつあります。
さて次は、15歳になるとこの島を出て元の地域に戻っていく子供たちが、社会を変え、人を変え、良質なゆめがみられる世界を創り出すことができるか。
「南の島プロジェクト」は、第2段階に入ります。
スコールがやむ頃子供たちは目をこすり、なごりを惜しみつつ「今」へと帰ってきます。
わたしは「南の島プロジェクト」のプロジェクトリーダーです。
今日のところはこの辺で。さて、わたしも仕事に戻りますか。
 
ゆめいっぱいの楽園の島より