介護老人保健施設 しょうわ
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39 これからのリハビリテーション

 リハビリテーション(以下リハビリ)について、説明したいと思います。ただし、独断と偏見も混じると思うので、特にリハビリ専門職の方からはご批判もあると思いますが、最後までお付き合いください。 

 リハビリという言葉から、みなさんはどのようなことを想像しますか。

 リハビリ室という空間で行われる、関節可動域訓練‐ROM訓練(柔道整復師が行うマッサージとは全く違うものですが、しばしば誤解されます)。平行棒を使った車椅子からの立ち上がり訓練。平行棒の中を歩く。階段昇降の練習。ジムの様なマシンを使った筋トレ。

 多くの方は、このような光景を思い浮かべるのではないでしょうか。このような手技は俗に機能訓練と言われ、身体機能を改善することを目的として行われる理学療法的なアプローチといえます。脳卒中の場合、急性期(発症後1ヶ月程度)から3ヶ月(回復期)の頃に急激に改善し、その後維持されるように行われる訓練です。リハビリの重要な要素です。

 身体機能は1ヶ月から6ヶ月程度の期間でおおむね回復は上限となります。

 回復期後半から維持期(生活期)には、生活機能の改善を目指して、作業療法的なアプローチが大切になります。残念ながら障害はゼロにならない場合、残存機能を上手く活用していく必要があります。たとえば、右利きの人に右手に麻痺が起こったとします。発症前は、箸やスプーンを右手で使用していましたが、発症後は左手で箸やスプーンを使わなければならなくなったとしましょう。それまで、左手で箸やスプーンを使うことはほとんどなかったはずです。まずは持つことから訓練を始めなければなりません。訓練を重ねて、少しずつ皿からスプーンで物をすくえるように訓練します。上手に箸をつかって物をつまめるようになるかもしれません。(これを代用利き手といいます)

 この時期は、障害と戦うのではなく、障害と上手く付き合っていく必要があります。残存機能を活用して、できることを増やし、生きがいややりがいを見つけて、生活を豊かに、楽しくしていく時期です。

 また、障害受容の過程も重要になります。病気になったことを認められず(否認)、病気や、そのために思うように動かなくなった体に対する怒りや落ち込み(抑うつ)、病気を受け入れる(受容)、もう一度人生を生きようと思う(再起)。このような心の動きは、時には前に進み、時には後戻りしながら、長い時間をかけて再起に向かいます。一度再起した心は、またいつでも抑うつに戻り、怒りが生まれ、そしてまた受容する。心は日々変化します。この心を支えることもリハビリの大切な役割となります。

 若年者は自ら外に出て、復職や就労をすることで社会活動、社会参加(以下活動、参加)が達成できるので、身体機能に対する機能訓練も十分なリハビリになります。

 しかし、高齢者の場合では、みなさんが想像されるような機能訓練中心のリハビリだけでは不十分です。

 そもそも高齢者は第一線での社会活動、社会参加からはすでに引退しています。昨今、政府は地域包括ケアシステムのかけ声のもと、互助の考えにもとづいたボランティア活動などに参加することを勧めますが、仕事一筋で生きてきたサラリーマンの多くは、定年退職後になかなか地域活動に参加できずにいます。新しいコミュニティーに参加することに対して尻込みしてしまいます。結果、散歩には行くがすれ違う人と話すわけでなく、1PCに向かっている閉じこもり状態となっていく方がいます。このような人が脳卒中などの障害を抱えたときには、周囲に見られたくないという気持ちが働き、閉じこもりはさらに進み、心身機能の廃用は増悪していきます。

 確かに、自ら外に出なくなった(出られなくなった)高齢者にとって、12時間の機能訓練を目的に、デイサービス(通所生活介護)やデイケア(通所療養介護)施設に通うことでも、活動、参加の機会は得られます。しかし、その他の時間のほとんどを自宅に閉じこもっていては心が動きません。

 機能訓練が目的になってしまい、その先に目標が見いだせなくなると、機能訓練を「がんばる」気持ちは、しだいに良くなっていかない体に対する焦りや苛立ちとなり、怒りや抑うつといった感情に包まれていきます。ますます家から出なくなってしまいます。

 障害と付き合っていかなければならなくなった人に、やりがいや生きがいにつながる「きっかけ」を提供して行くことがリハビリに求められます。

 これからの高齢者に対するリハビリは、その「きっかけ」が必要です。

 たとえば音楽療法や、園芸療法、学習療法など様々な療法が、認知症に効果があるといわれてきました。しかし、これらの療法はそれぞれが独立して効果があるものではありません。障害を持った高齢者のやりがいや生きがいの「きっかけ」として効果があるのです。音楽が好きな人には音楽療法が、園芸が好きな人には園芸療法が、それぞれ心を動かす「きっかけ」として有効なのです。当然その療法の一つひとつに、精神機能、身体機能、生活機能の維持や改善の効果があります。歌うためには息をたくさん吸い込み、それを吐き出す。これだけで呼吸器に対するリハビリになります。花の根に土をかけ、そっと抑えることで手指のリハビリになります。計算ドリルをするために座ることで座位保持のリハビリになります。

 その人に合った「きっかけ」の中に含まれる作業工程を一つひとつ分解し(分析)、期待できる効果を予測し、作業をとおして得られた結果を測定、評価する。そして次のプログラムを立てることが、これからの高齢者に対するリハビリとなっていきます。

 機能訓練を行うことが目的ではありません。維持、改善された機能を使ってどのように残りの人生を充実させていくか考え、楽しむことが、これからのリハビリに求められています。(介護老人保健施設しょうわでは「一芸活動」と呼んでいます。また、国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長 鳥羽研二先生は「家元制度」と呼んでいます)

 これからの高齢者に対するリハビリはやりがいや生きがい作りを目的、目標にしていくことが大切です。スーパーに買い物に行く。酒を飲みに行くことを目的にすることもよいでしょう。ただ、後期(超)高齢者は、すでにそのようなことからリタイヤしている方が大多数です。現実的には通所施設に通い、その中でやりがいや生きがいを見つけ、積み上げていきます。

 亡くなるときに、たくさんの作品に囲まれ、たくさんの足跡をとおして、家族に良い思い出を残せたら、その人のリハビリは成功したといえるのではないでしょうか。

 

(この原稿は機関紙『老健さきたまだより№57』に掲載されたものです。)