陽は昇った。
わたしは翼をひとつ、ふたつと羽ばたく。
わたしは高く舞い上がる。
わたしは翼を広げた。気流はわたしを高く舞い上げる。

わたしには見える。断崖、山並み、大地の果て。
わたしには見える。断崖の底、山並みの向こう、そしてこの地の果て。

崖下は鬱蒼とした大木に覆われ、どこまでも蒼い。けれどもその底に何があるのかわたしは知っている。
山並みの頂きは雪が積もり、どこまでも白い。けれども雪の向こうに何があるのかわたしは知っている。
大地の果ては山並みと、崖が切り分けている。その先に何が棲み、何が生きているか、わたしは知っている。

視線を落とすと、大地にひとりの男がいる。
おぼつかない足取りで歩いている。
もうすぐやつは倒れるだろう。
もうすぐやつはくたばる。
しばらく見ていよう。

やつはどこへ向かうのだろう。そんなことはどうでもいい。
やつはどこへ向かっているのだろう。そんなことはわたしには関係ない。
わたしに必要なことは、いつやつが倒れて動けなくなるかということだ。
やつがいつ、わたしの腹を満たしてくれるかということだ。
早く倒れろ。早くくたばれ。
わたしはやつを見ている。

やつはまだ倒れない。
やつはまだくたばらない。
陽は西に傾き、しばらくすれば夜がやってくる。
明日になればやつは倒れているだろう。
明日になればやつはくたばっているだろう。
わたしは明日まで待つことにする。
私はねぐらに帰ることにする。